見えない傷の手術 ~単孔式腹腔鏡下手術~

外科の手術といえばお腹にメスを入れて大きく開く開腹手術や手術支援ロボット「ダヴィンチ」が思い浮かぶと思います。しかし、どんな手術も医師の技術が必要不可欠です。単孔式腹腔鏡下手術は臓器に直接触れずに限られた術野で行う難易度の高い手術です。
そこで、当院の副院長で消化器外科医の石村健先生に話を伺いました。


お臍の穴1箇所で行う手術


開腹手術はその名の通りお腹を開けて行う手術で、腹腔鏡手術はお腹に数ヵ所の小さな穴を開け、腹腔鏡と呼ばれるカメラを挿入し、腹腔鏡と接続されたモニターに映ったお腹の中(腹腔内)の映像を見ながら行う手術です。腹腔鏡手術の中でもお臍の穴1ヶ所で行う手術を「単孔式腹腔鏡下手術」といいます。お臍を2~3cm切開しますが、手術創は美容形成のテクニックを用いてお臍を形成しますので、お臍が無くなることはありません。傷そのものがお臍のくぼみの中に隠れるので、術後しばらくすると傷が目立たなくなります。

メリット
・傷が小さいため術後の痛みが少ない
・術後の消化管運動の開始が早い
・早期の退院や社会復帰が可能
・術後の癒着も少ない(術後の癒着性イレウス*¹を軽減)

癒着性イレウス・・・開腹手術などの術後の影響による癒着によって腸管が折れ曲がったり狭くなったりして、消化管の内容物が流れなくなる状態

デメリット
・1ヶ所の穴に数本の器具を挿入するため、手術操作に制限が生じる
・開腹手術に比べて手術時間が約1.5~2倍かかる
・技術の指導や習得が開腹手術に比べて難しい

適応疾患

単孔式腹腔鏡下手術に適しているのは胆のうの摘出と虫垂炎(盲腸)です。主に良性の病気に対して行うことに適しています。最も施行件数が多い胆石症は、食生活の欧米化や高齢化などを背景に年々増加し、成人の10人に1人は胆石をもっていると言われています。当院では香川県下でいち早くこの手術を導入し、適応を拡大してきました。胆のう摘出術を中心に大腸癌手術、胃局所切除術、イレウス解除術、虫垂切除術など2010年4月から2021年3月までに約800例に施行しています。
単孔式だけでなく腹腔鏡手術は、直接病変を手で触ることができないため、浸潤範囲が分かりにくい進行癌には適していません。

医師の技術があってこそ実現した手術

腹腔鏡手術はモニターを見ながら二次元の画面で限られた視野で行うため、“空間把握能力”が必要です。直接手で触らず鉗子という器具を用いて組織を切ったり剥がしたり、縫合を行いますが、単孔式ではこれらの操作を1ヶ所の穴から行うため、他の腹腔鏡手術に比べ少し難易度が高くなります。当院ではこの手術に習熟した医師が増えているので、積極的に実施しています。
単孔式腹腔鏡下手術は、「ボトルシップ」を作成する作業に似ていると言われています。ボトルシップとは、瓶の中に船の模型が入っているオブジェで、瓶の中で部品をくっつけて組み立てるので難しい作業です。単孔式腹腔鏡下手術はまさにボトルシップを作るようなイメージです。

これからの取り組み

当院はreduced port surgeryという従来の内視鏡外科手術と比較して、手術の際の切開創の数やサイズを減らし、低侵襲性を追求した患者の身体の負担を小さくする手術方式に力を入れています。手術支援ロボット「ダヴィンチ」やAIなど医療は日々進歩していますが、我々外科医も患者さんの身体に負担をかけない手術を実現させるために、努力しています。