骨は生きている

骨粗鬆症は生命をおびやかす病気ではないが、日常生活に関わってくる病気です。
一生自分の足で元気に歩くために若いうちから骨を気遣った生活を心掛けましょう。
                                 整形外科 副院長 真柴 賛


加齢とともに骨は弱くなる

 骨には体格や骨格を保ち、脳神経や内臓を保護する役割に加え、筋肉が付着して運動の支点としての役割、またカルシウムの貯蔵庫としての役割もあり、実は多機能な器官です。骨は成長に伴い軟骨が骨化していくことでカルシウムやリンといったミネラルが蓄積して骨密度が高くなり10代後半から20歳くらいにピークを迎え、40歳を過ぎると運動量の低下も関与して徐々に骨密度は低下します。特に女性は閉経期を迎えると女性ホルモンの分泌量が低下することで、骨を壊す破骨細胞の働きが強くなり、どんどん骨が吸収されることで比較的急激に骨量が低下してしまいます。最大骨量も男性より女性が低いうえに、閉経に伴い、骨量の低下も早いため、加齢に伴う骨粗鬆症の罹患頻度は女性において高くなることが知られています。

 骨粗鬆症は骨強度の低下によって骨折のリスクが高くなった骨格の疾患と定義されます。骨強度を決定するのが骨密度と骨質ですが、骨質には骨構造、骨代謝回転、微細なヒビの蓄積、骨石灰化やコラーゲンの状態が含まれます。かつて骨粗鬆症は骨の量が減って構造が劣化して骨折する疾患と考えられていたのですが、糖尿病や腎疾患など骨量が減らなくても骨折しやすくなることが判明してから骨質劣化型の骨粗鬆症が注目されるようになってきました。

 骨粗鬆症で問題となるのは、転倒などの軽微な外傷で骨折を起こしてしまう「脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折」です。骨折部位としては、脊椎圧迫・大腿骨近位部・手関節・上腕骨折近部の4か所が代表的です。なかでも脊椎圧迫骨折と大腿骨近位部骨折を起こしてしまうとその後の死亡リスクが有意に上昇することが大規模な疫学調査で明らかとなっています。

骨の新陳代謝


 他の組織と同じで骨は常に古い骨を壊し、その場で新しい骨を作るということを繰り返しています。これを「骨リモデリング(骨の新陳代謝)」といいます。破骨細胞が古い骨を壊して吸収し、吸収されて凹んだ部分に骨芽細胞がくっついて新しく骨を形成して形を元に戻します。その期間は骨の部位によって異なり、早い部位で半年から1年、遅い部位では20年かかると試算されています。
 骨リモデリングが高くなり過ぎると吸収されて凹んだ部分が十分戻らないうちに新しい吸収が起こり、骨の構造が劣化、骨量自体の低下で骨強度は低下します。一方で、骨リモデリングは低くなり過ぎても古い骨が入れ替わらずに残り続けるため、骨材質の老化によって強度が低下する可能性があります。そのため、骨の質を維持して健康を保つためには適切な新陳代謝が必要です。

骨粗鬆症の検査と診断


診察で以下の項目を聴取します。
➀低骨量を来たす疾患の既往
➁ステロイド薬の使用
➂脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折の既往
➃喫煙、飲酒の生活習慣
➄骨粗鬆症と骨折の家族歴
➅(女性のみ)閉経時期
その他に身長、体重測定と腰背部痛や脊椎変形の有無をチェックします。

 骨密度検査は、主にDXA(デキサ)法で行いますが、手首で測定する簡易法より腰の骨や足のつけ根の測定が正確であるため推奨されています。診断は、脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折の骨折歴と骨密度測定値で行います。脊椎圧迫骨折か大腿骨頸部骨折の既往があると骨密度値に関係なく、それだけで骨粗鬆症と診断されます。また、手関節や上腕骨近位部の骨折がある場合は、骨密度値が若年成人平均の80%未満であれば骨粗鬆症と診断されます。骨密度値が若年成人平均の70%未満であれば全く骨折歴のない方でも骨粗鬆症と診断されます。
 血液や尿検査によって骨代謝マーカーの測定も行われますが、これは診断のためではなく、今後の骨量減少の予測や薬物による治療効果の判定に用いられます。また、日本人の9割はビタミンDが不足していることから、それを調べる検査として血中25ヒドロキシビタミンDを測定し、薬物治療選択の判断材料とします。

薬物療法が中心

 骨粗鬆症の治療は薬物療法が中心になり、薬物の種類は骨折のリスクの程度を考慮して決定します。骨吸収を抑える薬・骨形成を促進する薬・骨代謝をサポートする薬などがあり、患者さんの症状や進行度によって選択します。
 骨は身体で最も代謝が遅い組織であり、骨粗鬆症の薬物治療の効果が出ることも遅いうえに、骨折を起こして初めて症状が出る病気のため、薬物治療を行っても効果を実感しづらいです。だからといって、自己判断で服用を中断してはいけません。手術が必要になり重篤な骨折を起こしてから「ちゃんと治療しておけば良かった」と後悔しないためにも定期的な骨粗鬆症の検査と骨粗鬆症と診断された方においては骨折リスクの程度に応じた薬物治療の継続を推奨します。