膝の人工関節手術

高齢者にとって膝の痛みは腰痛の次に頻度の高い症状です。
日本でも患者数の多い「変形性膝関節症」の治療方法として“人工関節”という選択肢があります。
そこで、関節外科(特に膝・足)を専門とする整形外科の副院長 真柴医師に聞いてみました。


膝の痛みがサイン

加齢や足の使い過ぎ、体重増加によって関節のクッションである軟骨がすり減ってしまい、痛みが生じ膝が変形してしまう病気を「変形性膝関節症」といいます。過去に膝を痛めたことがある方や高齢、肥満、O脚の方は注意が必要です。

治療法は大きく分けて二つ

まずは痛み止め、湿布、ヒアルロン酸の関節内注射などで保存治療を行います。O脚変形がある方には足底挿板や膝のサポーターが症状軽減に効果があります。また、筋力の低下が原因として発症することも考えられるため、膝周囲の筋力向上が重要です。これらの保存治療が有効でない患者さんには手術治療が適応されます。手術方法はO脚を矯正する骨切り術は今後の症状の悪化を防止するために比較的に早い段階で行い、重症化している場合には人工関節手術を行います。

変形性膝関節症に対する人工膝関節置換術

膝関節の表面全てを置換する人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)と内側あるいは外側のいずれかのみを部分置換する人工膝関節単顆置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty:UKA)があります。

人工膝関節全置換術(TKA)の特徴

・膝関節の表面全てを置換
・全ての人工関節手術の中で最も件数が多い
・どんなに強い変形でも矯正して脚をまっすぐにでき、曲がって伸びない膝も伸ばすことが可能
・手術侵襲は比較的大きく、合併症の可能性がやや高い
・耐久性は30年程度


人工膝関節単顆置換術(UKA)の特徴


・内側あるいは外側の部分的置換
・インプラント部品の体積がTKAの4分の1から5分の1程度
・手術侵襲が小さい
・術後の回復が早く、手術翌日から歩行練習開始
・関節内の健常部分を温存できるため違和感が少ない
・耐久性は20年程度



人工膝関節の合併症


手術による出血過多やばい菌が入って繁殖する感染症、血液が固まって血管を詰まらせる血栓・塞栓症などがあります。ただし、手術時間の短縮や予防措置を講じることによってその発生率を大幅に低減することができます。また、骨粗鬆症で骨がもろい状態になっている患者さんでは人工関節の周囲で骨折することが稀にありますので、その際は骨粗鬆症の薬物治療が必要になります。

人工関節の耐久性と手術後の活動性

自分の体に異物を入れるような感覚で不安に感じ、また耐久性を気にする方もいると思います。人工関節の材質は進化を続けており、個々の症例によってばらつきはありますが平均でTKAは30年、UKAは20年以上の耐久性が期待されています。以前は人工関節を長持ちさせるために運動はしない方がいいという意見もありましたが、近年は人工関節の耐摩耗性能が大幅に向上しているため、筋力維持のために衝撃を伴わない(ダンス、卓球、水泳、ゴルフ、自転車、ハイキング、ウォーキングなどの走ったりジャンプしたりしない)運動は推奨されています。

早めのご受診を

膝の手術は歩くことができなくなってからと考えられていましたが、人工関節の耐久性が良くなった近年では、手術は少し早めに行うことが推奨されています。状態が悪化してからの手術は高齢者の場合手術のリスクは上がり、術後に膝の機能を回復させるのも大変になります。
ある程度の期間、保存治療を行っても痛みが続いてお困りでしたら、早めに医療機関の受診をおすすめします。